高校生のための
マクローリン展開(2)


このコーナーに応援のメールを頂きました。ありがとうございます。
いやー、手を抜けなくなりましたなぁ ^^;。


前回は cos のマクローリン展開を示しました。

今回は他の関数のマクローリン展開を示し、その面白い利用方法を示しましょう。

実はマクローリン展開は単に計算に用いるだけではありません。新しい定理や公式
の発見にも利用されるのです。

その中には「博士の愛した数式」もあるんですよ。
(ちなみ私は、この博士が大好きです。この博士のような心を持った人になりたい)

では、本日の講義を始めましょうか。




他の三角関数のマクローリン展開:

前回は cos のマクローリン展開を示した。


では sin のマクローリン展開を示そう。
例によって sin を次のように表現して係数を求める。

この式に x = 0 を代入すれば係数 A0 が求まる。


つづいて式の両辺を微分して x = 0 を代入すれば係数 A1 が求まる

あとは同様に式の両辺を微分して x = 0 を代入すれば次々と係数が求まる。
最終的に sin のマクローリン展開は次のようになる


因みに tan のマクローリン展開は省略する。
(計算量が多い割には用途がない。しかし興味のある人は挑戦してみるとよい)。

tansincos の値から計算できるので実用的には必要ないのだ。




指数関数のマクローリン展開:

指数関数 ex の性質は興味深い。微分しても形が変わらないのだ。


この関数のマクローリン展開を求めてみよう。まず式を次のようにおく


もう係数を求める過程を示す必要も無いだろう。今までと同様にやるだけだ。
したがって結果だけを示そう。


このマクローリン展開の結果を見て
「なるほど確かに微分しても形が変わらない!」
と納得してもらえるだろうか?まぁ、分からなくても良いのだが・・・。




得体の知れた関数もマクローリン展開:

今までは、ある意味得体の知れない関数(?)をマクローリン展開してきた。
しかし、得体の知れた関数もマクローリン展開できる。例えば次がそうだ。


これは筆算で計算できる範疇の関数なのでマクローリン展開する意味がないように
思われる。しかし、マクローリン展開してみると意外な事実が分かるのだ。

それでは展開してみよう(今回は少し丁寧に説明する)
展開するには、まず最初に目的の関数を次のように表すのであった。


この式に x = 0 を代入して係数 A0 を求めると次のようになる


次に式の両辺を微分して x = 0 を代入して係数 A1 を求めると


同様に式の両辺を微分して x = 0 を代入して係数 A2 を求めると



以下同様に係数を求めてゆくと、最終的にマクローリン展開は


となる。




数学の完全さ = 美しさ:

ここで唐突だが等比数列(初項1、公比 x )の第 n 項までの和 Sn を考えてみよう




ここで |x|<1 のときに極限 n をとると Sn は収束し



が得られる。なんと上で求めたマクローリン展開と全く同じ式になるのだ!

微分に基づくマクローリン展開と、数列に基づく無限級数の和という2つの異なる
アプローチから同じ式が得られるのは興味深い。これが数学の完全性=美である。


ひとつ補足しなければならない。無限級数の和が収束するのは |x|<1 のときだけ
である。つまり |x|≧1 のときは成り立たない。

当然、上のマクローリン展開の式が成り立つのも |x|<1 の場合だけである。
マクローリン展開を使う場合には x の範囲に注意しなければならないのである。

このことは頭の片隅に入れておいて欲しい。




細心かつ大胆に:

ここでイタズラ心を発揮してみよう。

例えば指数関数のマクローリン展開

x に虚数を入れてみたらどうなるか?

「ちょっと待て!実数の虚数乗とは一体どういうことだ?そんなことしていいのか?」

いや、結果がどうなるかは後の楽しみにしておいて大胆に挑戦してみよう。

x の代わりに ix を代入する


これを実数項と虚数項に分けると


この式のそれぞれの括弧の中身に見覚えがないだろうか。

 最初の括弧の中身は cos のマクローリン展開
 後ろの括弧の中身は sin のマクローリン展開

ということに気づいただろうか?つまり


という式が得られる。実際、この式は正しく成り立つことが知られており
  オイラー(Eular)の公式
と呼ばれている。

実はこの式はとんでもない意味を持った式なのだ。

実数の世界では他人と思われていた三角関数と指数関数が、実は虚数の世界を
通じてつながっていた事実を暴いてくれたのだ。
   

数学で重要なのは(いや数学に限らず人生すべてに当てはまるかもしれないが)
「細心かつ大胆に」だということを憶えておこう(ただし、これは私の考えだ)。

マクローリン展開は間違いを恐れずに自由に大胆に突き進んでみた結果得られた
産物である。

しかし、x の範囲に注意が必要であることも述べた。ここは細心の部分。
大胆に突き進んだ後に注意深く顧みることの重要性を説いているだ。

とは言っても、まずは大胆な発想で突き進んでみる若さが重要だ。最初から細心に
なりすぎて前へ進めないのでは退屈だ。細心になるのは大胆に進んでからでよい。

大胆な発想,自由な発想というのは重要なのだ!

間違いを恐れてはいけない。



博士の愛した数式:

それはオイラーの公式に x = π を代入したときに得られる最も美しい数式である。

    

なぜ美しいのか?
それは次の5つの不思議数が調和している(シンプルな形で結ばれている)不思議な
式だからだ。


1) 円周率 π
 それは「完全な図形」円にまつわる数。
 つまり円周の長さと直径の比であり無理数である。

2) 自然対数の底(ネイピア(Napier)数ともいう) e
 その定義は摩訶不思議である。
   
 このように定義されるネイピア数もまた無理数である。

3) 虚数単位 i
 2乗すると -1 になる数。虚数の虚は謙虚の虚。奥ゆかしい数である。

4) 自然数の最小元
 人類が最初に使い始めた数は自然数だと考えられている。その最小限が 1。
 物事の始まりを表し、数をかぞえるときの最小単位。積の単位元でもある。

5) 数学史上最大の発見 0
 この数に何をかけても 0 になる魔法の数。
 和の単位元でもある。
 ゼロの発見は数学の発展を大きく後押しした。


「博士の愛した数式」はオールスター揃い踏みでありながら余計なものが一切無い

なぜ全く関係ない数字の組み合わせがこのように美しく調和しているのか私にも
分からない。それは神様の為せる業(わざ)としか言いようが無い。

とにかく数学のエッセンスが詰め込まれた最高にエレガントな式なのだ。




オイラーの公式のご利益1:

ド・モアブル (de Moivre) の定理というのがある
次の式が任意の正整数 n で成り立つという定理のこと。



この定理は n に関する数学的帰納法によって証明できるので、高校でも習うかも
しれない。

 (1) n = 0 のとき成り立つ
 (2) n = k のとき成り立つと仮定すると n = k + 1 の時も成り立つ


しかしオイラーの公式を知ってしまった今、わざわざ数学的帰納法などという大げさな
ことをしなくても馬鹿馬鹿しいくらい簡単に証明できて、もはや定理とは呼べない程だ
(ド・モアブルさん。ごめんなさい^^;)。

しかも n は正整数だけでなく任意の数について成り立つ。




オイラーの公式のご利益2:



の2つの式から



が得られる。これを三角関数の指数関数表示という。
指数関数になっていれば2乗や3乗の計算は簡単(指数の足し算)で済む。
その上、指数関数は微分や積分も楽なのだ

  微分は x の係数を掛けるだけ
  積分は x の係数で割るだけ

したがって上記の式は微積分の計算を大幅に軽減してくれる。
例えば


この計算を指数関数を用いずに真面目に三角関数だけで計算するのは大変だ
(いや、この程度なら三角関数だけでも簡単に計算できる。しかし指数関数表示を
使えばもっと複雑な計算だって可能になるのだ)




まとめ:

マクローリン展開という道具は、単に近似値計算に使うだけの代物ではありません。
この便利な道具によって数学の新たな事実が明らかになったのです。

これらの数学の道具は大胆な発想によって生まれました。そういう発想力は数学だけ
に限らず人生にとって大切なことだと私は思っています。

 ・・・

オイラーの公式から導出される「三角関数の指数関数表示」は微積分の計算を劇的
に楽にしてくれました(とくに積分の場合、原始関数を見つけるのが楽)。

そして「フーリエ級数」というものと組み合わせると、その応用範囲はもっと広がります
(フーリエ級数については別の機会に説明しましょう)。

現代の科学技術には欠かせない数学の道具です。ケータイ、テレビ、ラジオ、パソコン
などの研究・開発・設計にオイラーの公式は大活躍しているのですよ。

みなさんの生活の中にマクローリン展開やオイラーの公式は活かされているのです。

 ・・・

これまで数式は厳密な証明を行わずにきました。その証明を入れると高校生には
かなりシンドイ内容になってしまうからです。

このシリーズの目的は、みなさんに新鮮な驚きを提供したいということです。
ですから難しいことは抜きにして楽しんでもらえることを念頭に執筆しました。

証明は大学へ進んでからでも遅くはないです。
まずは楽しみましょう。そして発想を膨らましてみましょう。

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